前回の記事でようやくボリューム効果を入れて全うに動作するようになったので、次は熱慣性を追加する。Thermal Massとか、Heat Soakageとも呼ばれる、流体が触れる固体材料に流体の持つ熱が奪われる現象である。定常状態では材料温度と流体温度が等しいが、過渡状態では、材料の熱容量のために温度変化が流体温度に対して遅れ、その結果流体の温度変化も遅れる。この現象の効果は低温環境下でエンジンを急加速させた場合や、エンジン内が高温で作動していた状態から急減速を行った場合の挙動再現に必須だ。
これは、ボリューム効果と同じくModelica Standard Library内のコンポーネントだけで最低限の機能を実装できる。前回の記事で使ったターボジェットエンジンモデルに熱慣性を追加すると、Fig.1に示す回路となる。
実は、ボリュームコンポーネントを追加してモデルを動かすことに拘った理由は、ボリューム効果そのものの実装よりも、熱慣性を含めた回路を組み立てるのにボリュームコンポーネントを使いたかった事の方が大きい。
ボリュームコンポーネントは質量遅れだけでなく、有限体積内の流体の圧縮性・質量保存・熱量保存をまとめて計算するコンポーネントだ。なので、熱ポートが備わっていて、流体への熱の流入出を計算する機能も搭載されている。流体ポートと熱ポートを持った、熱量保存だけを計算するコンポーネントを自作すればすぐだったっだろうが、質量・熱量の保存が”capasitance”の要素として1つにまとめられた、このボリュームコンポーネントを使った方がモデルの造りとして美しい。
質量溜め効果と熱慣性の送受熱をボリュームコンポーネントに纏められたことで、エンジンのガス流についてと、固体材料とガス流についての両方で、”resistance”型と”capacitance”型のコンポーネントが交互に並ぶ形の回路が組みあがった。
*コンプレッサやタービンは、機械による仕事の出入りを伴うが、どれだけの圧力差(比)が有るかで流れうる質量が決まるので、種別は”resistance”コンポーネント。
*インレット、ダクト、ノズルは特性値の見方が違ったり、全圧←→流速の変換が行われたりするが、どれも圧力損失を起きる要素で、当然"resistance"コンポーネント。
resistanceとかcapacitanceとかの話題は別途詳しく取り上げるとして、本題の熱慣性が意図したとおり動いているか見よう。エンジンの操作は、投入燃料流量をステップで増して急加速する。
plotは燃焼器出口のガス温度、熱慣性の固体温度、熱慣性の効果を受けた下流のガス温度(タービン入口ガス温度)である。想定通り、タービン入口ガス温度の上昇が明らかに遅れ、固体温度が燃焼器出口温度同じになるまで続いている。
興味深いのはその後の動き。流体から固体への放熱から、逆に固体から流体への放熱が起きる。これは、回転体慣性を実装した段階から見えていた、燃焼器出口温度が一度インパルスを与えたかのように上昇し徐々に下がっていく挙動に因る。エンジン通過空気流量が遅れるために起きる、ガスタービン機関独特の動きだ。
plotはガス・固体材料間の伝熱量である。正値が固体からガス、負値がガスから固体への熱移動を示す。1次遅れ系のインパルス応答のようにガスから固体への放熱が起きる。そして、ガス温度と固体温度が等しくなるタイミングで0を跨ぎ、固体からガスへの放熱に転じる。Fig.2の温度の動きと合致している。
現実には、固体には熱の移動方向に沿う長さがあり、ガス流曝露面と反対側の間に温度の勾配が起き、固体自身の内部熱抵抗がさらに温度変化の遅れを生む筈である。今回は、一番単純な、熱容量モデル化までに留めたが、温度挙動の精度を高めるには固体側の熱回路を詳細化せねばならない。
また、このライブラリ&モデル製作では現象が計算上で再現できる所までに留めているが、実際に固体のピーク温度や高温状態持続時間、エンジン加速所要時間を正確に見積もるには、入力する熱容量・熱伝達率・伝熱面積の値を正確に与えなければならない。それらをどう設定するかは、試験データを蓄積し、値の設定プロセスのノウハウを蓄える必要がある。この部分はモデル・ライブラリ屋の力では出来ないことで、実物を作って試験を行うことのできるメーカー固有のノウハウだ。
今回、文章がやたらと長くなってしまったが、ここまで。
次回は制御システムを追加する予定。
[amazon、紙面・電子]
[楽天、紙面書籍版] [AU payマーケット、紙面書籍版]
[honto、電子版] [楽天、電子書籍版] [AU payマーケット、電子書籍版] [7ネットショッピング、電子書籍版]
[amazon、電子版・紙面版]
[Yahoo、紙面書籍版]
[amazon、電子版・紙面版]
[楽天、電子書籍版]
[amazon、紙面版]
[amazon、電子版・紙面版]
[amazon、紙面版] [楽天、紙面書籍版]
[amazon、紙面版]
[amazon、紙面版]
[honto、電子版]
[amazon、電子版・紙面版]
[amazon, 紙面版・電子版] [honto、電子版]
[amazon、紙面版] [Yahoo、紙面書籍版]
[amazon、紙面版]
[Yahoo、紙面書籍版]
[amazon, 紙面版]
[amazon、電子版・紙面版]
[amazon、紙面版]
[amazon, 紙面版]
[amazon, 紙面版]
これは、ボリューム効果と同じくModelica Standard Library内のコンポーネントだけで最低限の機能を実装できる。前回の記事で使ったターボジェットエンジンモデルに熱慣性を追加すると、Fig.1に示す回路となる。
Fig. 1
実は、ボリュームコンポーネントを追加してモデルを動かすことに拘った理由は、ボリューム効果そのものの実装よりも、熱慣性を含めた回路を組み立てるのにボリュームコンポーネントを使いたかった事の方が大きい。
ボリュームコンポーネントは質量遅れだけでなく、有限体積内の流体の圧縮性・質量保存・熱量保存をまとめて計算するコンポーネントだ。なので、熱ポートが備わっていて、流体への熱の流入出を計算する機能も搭載されている。流体ポートと熱ポートを持った、熱量保存だけを計算するコンポーネントを自作すればすぐだったっだろうが、質量・熱量の保存が”capasitance”の要素として1つにまとめられた、このボリュームコンポーネントを使った方がモデルの造りとして美しい。
質量溜め効果と熱慣性の送受熱をボリュームコンポーネントに纏められたことで、エンジンのガス流についてと、固体材料とガス流についての両方で、”resistance”型と”capacitance”型のコンポーネントが交互に並ぶ形の回路が組みあがった。
*コンプレッサやタービンは、機械による仕事の出入りを伴うが、どれだけの圧力差(比)が有るかで流れうる質量が決まるので、種別は”resistance”コンポーネント。
*インレット、ダクト、ノズルは特性値の見方が違ったり、全圧←→流速の変換が行われたりするが、どれも圧力損失を起きる要素で、当然"resistance"コンポーネント。
resistanceとかcapacitanceとかの話題は別途詳しく取り上げるとして、本題の熱慣性が意図したとおり動いているか見よう。エンジンの操作は、投入燃料流量をステップで増して急加速する。
Fig.2
plotは燃焼器出口のガス温度、熱慣性の固体温度、熱慣性の効果を受けた下流のガス温度(タービン入口ガス温度)である。想定通り、タービン入口ガス温度の上昇が明らかに遅れ、固体温度が燃焼器出口温度同じになるまで続いている。
興味深いのはその後の動き。流体から固体への放熱から、逆に固体から流体への放熱が起きる。これは、回転体慣性を実装した段階から見えていた、燃焼器出口温度が一度インパルスを与えたかのように上昇し徐々に下がっていく挙動に因る。エンジン通過空気流量が遅れるために起きる、ガスタービン機関独特の動きだ。
Fig. 3
plotはガス・固体材料間の伝熱量である。正値が固体からガス、負値がガスから固体への熱移動を示す。1次遅れ系のインパルス応答のようにガスから固体への放熱が起きる。そして、ガス温度と固体温度が等しくなるタイミングで0を跨ぎ、固体からガスへの放熱に転じる。Fig.2の温度の動きと合致している。
現実には、固体には熱の移動方向に沿う長さがあり、ガス流曝露面と反対側の間に温度の勾配が起き、固体自身の内部熱抵抗がさらに温度変化の遅れを生む筈である。今回は、一番単純な、熱容量モデル化までに留めたが、温度挙動の精度を高めるには固体側の熱回路を詳細化せねばならない。
また、このライブラリ&モデル製作では現象が計算上で再現できる所までに留めているが、実際に固体のピーク温度や高温状態持続時間、エンジン加速所要時間を正確に見積もるには、入力する熱容量・熱伝達率・伝熱面積の値を正確に与えなければならない。それらをどう設定するかは、試験データを蓄積し、値の設定プロセスのノウハウを蓄える必要がある。この部分はモデル・ライブラリ屋の力では出来ないことで、実物を作って試験を行うことのできるメーカー固有のノウハウだ。
今回、文章がやたらと長くなってしまったが、ここまで。
次回は制御システムを追加する予定。
---------------
[ブログ内リンク]
●ブログトップへ:
http://virtuallabmodelica.blog.jp/
[z_plusplusの他のブログへのリンク]
●地球の重力の井戸の底から:
http://zplusplus-anti-gravity.blog.jp/
本ブログと異なり,テーマを絞らずに理工系に繋がる趣味記事をちょくちょく書いているブログです。どうぞお立寄り下さい。
●ブログトップへ:
http://virtuallabmodelica.blog.jp/
[z_plusplusの他のブログへのリンク]
●地球の重力の井戸の底から:
http://zplusplus-anti-gravity.blog.jp/
本ブログと異なり,テーマを絞らずに理工系に繋がる趣味記事をちょくちょく書いているブログです。どうぞお立寄り下さい。
ブログ移転の案内
この記事 でお知らせしたとおり、本ブログはブログサービス下での運営を止め、個人サーバー上のwebページに引越しします。livedoorブログが存続している限り本ブログは閉鎖せず残り続けますが、 この記事 以降の記事は総て こちらの新ブログ にて公開してゆきますので、これからもよろしくお願いします。
文献紹介
Modelica, Model-based degign
Modelicaによるシステムシミュレーション入門
入門者に最適の書。Modelicaって何?という導入から、簡単なコードベースやGUIベースの例モデルまで解説。筆者も入門時に手に取った。訳に少し癖が有る印象だが、英語書物がハードルになる方には確かな助けになる筈。
[amazon、紙面・電子]
[楽天、紙面書籍版] [AU payマーケット、紙面書籍版]
[honto、電子版] [楽天、電子書籍版] [AU payマーケット、電子書籍版] [7ネットショッピング、電子書籍版]
Introduction to Modeling and Simulation of Technical and Physical Systems with Modelica
「Modelicaによるシステムシミュレーション入門」の英語版原書。英語に抵抗がなければこちらを入手したら良いと思う。
[amazon、電子版・紙面版]
[Yahoo、紙面書籍版]
Principles of Object-Oriented Modeling and Simulation with Modelica 3.3 A Cyber-Physical Approach (Wiley-IEEE Press)
本格的にModelicaを使い込むなら必携の書。辞書的に適宜調べものをするような形で手元に有ると頼もしい武器。量が多いので電子版もお勧め。筆者もKindle版を所有し、かなりの頻度で参照している。
[amazon、電子版・紙面版]
[楽天、電子書籍版]
はじめてのModelicaプログラミング -1日で読める わかる Modelica入門-
[amazon、紙面版]
Modelicaによるモデルベースシステム開発入門-ModelicaとFMIの活用による実践的モデルベース開発-
[amazon、電子版・紙面版]
Introduction to Physical Modeling With Modelica
[amazon、紙面版] [楽天、紙面書籍版]
Development of Modelica Library for Dynamics Simulation of CHP Plant: Modelica library structure design and modeling for transient simulation of Combined Heat and Power (CHP) plant
[amazon、紙面版]
Python
入門 Python 3
[amazon、紙面版]
かんたん Python
[honto、電子版]
スッキリわかるPython入門 (スッキリシリーズ)
[amazon、電子版・紙面版]
ゲームを作りながら楽しく学べるPythonプログラミング
[amazon, 紙面版・電子版] [honto、電子版]
流体力学(Fluid Mechanics)
Fundamentals of Fluid Mechanics
[amazon、紙面版] [Yahoo、紙面書籍版]
[amazon、紙面版]
[Yahoo、紙面書籍版]
熱力学(Thermodynamics), 熱機関(Engine, power system)
Fundamentals of Engineering Thermodynamics
[amazon, 紙面版]
Fundamentals of Jet Propulsion with Applications
[amazon、電子版・紙面版]
[amazon、紙面版]
航空力学/飛行力学(Aerodynamics/Flight Dynamics)
航空機の飛行力学と制御
[amazon, 紙面版]
Flight Stability and Automatic Control
[amazon, 紙面版]
------------------------------
- [ブログ内リンク]
- [z_plusplusの他のブログへのリンク]
- 地球の重力の井戸の底から
本ブログと異なり,テーマを絞らずに理工系に繋がる趣味記事をちょくちょく書いているブログです。どうぞお立寄り下さい。
コメント